「日鉄鋼板 SGLスタジアム 尼崎」を含む環境配慮建築の事例
持続可能な社会の実現が世界共通の目標となった現代において、建築物にも環境への配慮が求められるようになってきました。都市開発や施設建設は、利便性やデザイン性を追求するだけでなく、省エネルギー性能、再生可能エネルギーの導入、資源の循環利用といったさまざまな観点が不可欠です。その観点を重視して建てられた建築物を「環境配慮建築」と言います。
本記事では、国内における環境配慮設計を取り入れた建築事例と、兵庫県尼崎市に誕生したばかりの環境配慮建築「日鉄鋼板 SGLスタジアム 尼崎」に焦点を当て、ご紹介していきます。
環境負荷を抑えるさまざまな工夫がされた環境配慮建築
まずは省エネルギー性能、再生可能エネルギーの導入、資源の循環利用など、環境への負荷を軽減するための工夫が施されている環境配慮建築を紹介していきます。
神奈川県にある複合業務ビル「みなとみらいセンタービル」では、T−Soleilという自然光を取り入れるミラーシステムを採用しています。太陽を自動追尾し、光を受け、拡散させる役割が異なるミラーを活用することで、昼間の照明使用を大幅に削減し、省エネルギー効果を高めています。
約1.3haという都内最大級の太陽光発電設備を設置しているのは「豊洲市場」。日中の電力需要の一部を自給しており、さらには屋上緑化やLED照明、外気冷房などを取り入れるなど、徹底したエネルギー管理がなされている点が大きな特徴です。
「東京ミッドタウン」では、遮熱やヒートアイランド現象への対策として、広大な屋上緑化エリアが整備されています。その総面積は約1800㎡。人で賑わう都心部にありながら、自然の空気を感じることができます。加えて、トイレの温度設定緩和や空調のCO₂制御など、多角的な省エネ策を実施しており、施設全体でCO₂排出量を20%以上削減しています。
福岡県にある「西南学院小学校」は、建築される前の工程が特徴的です。先に存在した中学・高校にて省エネな建物の運用と改善が繰り返し行われ、その運用データと経験を取り入れて建築されました。センサー照明や明るい吹き抜けを作って電力を抑えたり、空気の流れをつくるシステムを採用して換気を最適化したり、無駄のない省エネルギー設計を実現しています。
2010年に新病棟ができた大分県の「衛藤病院」では、増築の際、既存の建物から回収したコンクリートを再利用しています。廃棄物を増やさず、資源を再利用するのは環境配慮建築の一環です。
2025年開催の「大阪・関西万博」においても、自然との共生と資源の循環を建築で表現した施設が多数誕生しました。ポップアップステージの1つは未加工の丸太材を用いて建築され、会期後には解体・再利用される仕組みを採用。トイレには雨水を貯めて冷却効果を生む空気膜構造や、土を3Dプリントして造形された峡谷のようなデザインの建物もあります。休憩所の1つには、海に還元される石材で構成されたパーゴラを採用。訪れる人々が環境との共生を五感で体験できる装置としても機能しています。
これらはあくまで一部。環境配慮建築は用途や立地を問わず幅広く実現されており、各施設で創意工夫が凝らされています。
カーボンニュートラル達成に向けた動きも加速
環境配慮という言葉から「脱炭素」というキーワードを思いつく人も多いのではないでしょうか。前項で紹介した個別建築物での取り組みが進む一方、地域全体で脱炭素を目指す取り組みも始まっています。環境省が主導する「脱炭素先行地域」の選定はその代表例です。
脱炭素先行地域は、2050年のカーボンニュートラル実現に向け、地域ごとの特性を活かして温室効果ガスの削減に取り組むモデル地域です。環境省の「地域脱炭素ロードマップ」に基づき、自治体や地元企業が中心となって、省エネや再生可能エネルギーの活用などを進めています。環境省は、こうした地域を2025年度までに全国で100カ所選定する方針。そして、先行事例が全国へ波及する「脱炭素ドミノ」のモデルになることを目指しています。
現在、第1回から第5回まで脱炭素先行地域が発表済み。その第1回に兵庫県尼崎市の「ゼロカーボンベースボールパーク」が選定されました。その中核には「日鉄鋼板 SGLスタジアム 尼崎」という環境配慮建築があります。
「日鉄鋼板 SGLスタジアム 尼崎」の取り組み
2025年3月に開業した「日鉄鋼板 SGLスタジアム 尼崎」は、阪神タイガースの二軍本拠地であると同時に、ゼロカーボンをコンセプトに掲げる特徴的な環境配慮建築です。国の省エネ建築指標に基づき、基準一次エネルギー消費量よりも43%削減を達成し、野球施設としては初めて「ZEB Oriented(ゼブ・オリエンテッド)※」認証を取得。これは、延べ床面積が10,000㎡を超える大規模施設において求められる高水準のエネルギー効率性を満たすものです。
※ZEB Oriented: 延べ面積が10,000㎡を超える建物において、従来の建築物と比べて40%または30%(建物用途による)以上の一次エネルギー消費量を削減できたと評価された施設
ZEB PORTAL − ZEBの定義
スタジアムの大屋根や室内練習場の屋根・壁などには、施設名にもあるとおり日鉄鋼板が開発した次世代高耐食鋼板「SGL(エスジーエル)」を全面的に採用。SGLは、ガルバリウム鋼板をベースにマグネシウムを加えて防錆性能を飛躍的に高めた新素材で、ガルバリウムの3倍以上の耐食性を誇ります。塩害や傷への耐性にも優れており、施設の長寿命化とメンテナンス性の向上を支えています。
また、スタジアム設備においてもさまざまな取り組みを実施しています。LED照明の導入に加え、人感センサーと明るさセンサーを活用し、照明の使用を最適化。空調と換気についても、高効率型機器の採用と外壁の高断熱化、Low-E複層ガラスの設置によって冷暖房の負荷を軽減しています。また、EMS(エネルギーマネジメントシステム)による電力消費の可視化や照明のゾーニング制御、雨水・井戸水の活用など、評価項目にとらわれない先進的な取り組みも展開されています。
LEDナイター照明塔の光漏れは環境省が定める光害対策ガイドラインに、放送席やスピーカーの騒音は環境省が定める環境基準にそれぞれ適合。さらに、バックスクリーン裏には太陽光パネルを設置し、再生可能エネルギーを利用して自家発電する機能も備えています。
このように、「日鉄鋼板 SGLスタジアム 尼崎」は、省エネ性能の高さだけでなく、素材選定や構造面、水資源・エネルギー活用のすべてにおいて、環境と共にある未来型スタジアムの象徴として設計されました。持続可能な未来を体現する施設として、スポーツの場にとどまらず、次世代建築のロールモデルとしても注目を集めています。
記事についてお気軽に
お問い合わせください。
閲覧履歴からあなたにおすすめの記事です。
-
「日鉄鋼板 SGLスタジアム 尼崎」を含む環境配慮建築の事例
持続可能な社会の実現が世界共通の目標となった現代において、建築物にも環境への配慮が求められるようになってきました。都市開発や施設建設は、利便性やデザイン性を追求するだけでなく、省エネルギー性能、再生可能エネルギーの導入、…
-
自宅での生活を快適にするための記事まとめ
みなさんは、家で快適に過ごすためにどんな工夫をしていますか? 快適な住まいは、日々の暮らしを豊かにしてくれますよね。室内の温度や空気の流れ、家の構造や収納の工夫、清潔で心地よい空間づくりなど、ポイントはさまざま。今回は、…
-
素材も形も違うヨーロッパの屋根
世界には、長い歴史とその土地の気候や暮らしに合わせて発展した、多種多様な屋根があります。日本で見られる洋風建築も、元をたどればヨーロッパの雰囲気を取り入れたもの。そんなヨーロッパの屋根にも、北や南など地域ごとで使用する屋…