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屋根と暮らしのスタイルマガジンRoofstyle

【シリーズ特集】鉄と住まい <第4回 「手賀沼モデル」を支える鉄建材の特徴>

ライフスタイル

<アプローチから見た主屋の全景>

 
前回の記事【シリーズ特集】鉄と住まい <第3回 鉄と木が調和する住宅「手賀沼モデル」とは?>
 
全4回のシリーズ特集「鉄と住まい」。最終回となる今回は、戸建て住宅「AREA-TEGANUMA ・パッシブデザイン手賀沼モデル」の設計者である金子尚志先生にお話を伺ってきました。鉄と木が調和する手賀沼モデルを設計するにあたり、鉄がどのように使われ、役割を果たしているのかをご紹介していきます。
 

その地域に馴染むことを一番に考えて設計


<手賀沼モデルの設計コンセプトついて語る、金子准教授>

 
−−まず初めに、手賀沼モデルの設計コンセプトについて聞かせてください。
この敷地を訪れたときの第一印象は、とても豊かな自然が残っているというものでした。瓦の屋根の住宅が多いエリアで、水と緑の街という印象ですね。私は住宅を設計する際に一番大事にしているのは、周辺との関係性です。ここは自然の豊かさと、古くから形成されている集落、そして瓦の美しい屋根が多い。そういった環境に馴染む住宅を建てることを重要視しました。
 
−−自然豊かな場所に鉄を使った住宅。景観に馴染むよう作るのは難しそうに感じますね。
初めのころは、ちゃんと景観に馴染むのだろうか……という気持ちも少しありました。ただ、瓦は日本的な建材のひとつですが、鉄だって古くからある素材のひとつなんですよね。試行を重ねていく中で、鉄素材をうまく使えば周囲の環境とも馴染むと思うようになりました。
 
あとは、形の問題ですね。この住宅は外からバルコニーが見えません。バルコニーのような現代的な形を外から付け足すような作り方をせず、この集落の雰囲気に配慮した外観を模索しました。内部は階段の両側にバルコニーが配置される構成を考えつつ、一方で外から見るとシンプルになるように意図しています。
 

<主屋とはなれの間の大型ウッドデッキ>

 
もうひとつ、依頼をいただいた際に「地域で集う場所になるように」というようなお話がありました。そこから、建物の周りに居場所としての外部空間を作れるといいんじゃないかと思い、平屋と2階建ての間に居場所があるというイメージを作りだしました。真ん中のテラスがデッキとして2つの建物つなぐ役割をしています。南の庭、南側の庇の部分、中庭的な部分、北側にもスペースがあって、いろんな居場所があります。
 

<建物北東側からの遠景>

 
−−いろいろな部分に周辺環境とのマッチングを意識されているのですね。
ほかにも外観で工夫した部分はあります。たとえば屋根を北側から見ていただくと太陽光パネルが見えますが、実は太陽光パネルの原則で言うと南側に設置するのが基本で、効率も良いんですね。ではなぜ北側にあるのか。それは、南側の屋根が美しく見えるからです。敷地周辺は南が少し高くなっている地形で、屋根の面積もそれなりにあるので、効率だけではなく、周辺に対してどういう景観を提供できるのかを考えています。
 
つまり、都市景観、街の景色を作るという意識ですね。その建築物を作ることによって、都市に対してどういう貢献ができるのかが重要だと考えています。そういう意味で、鉄建材の美しさによる屋根の表現。そういったところにも大きなテーマがあったと思います。
 

<ウッドデッキ部をはなれ側から望む>

 
−−屋根の話になった流れで、設計イメージを聞かせていただきたい部分があります。平屋の北側(テラス側)の軒下空間ですが、2mくらい庇が出ている。袖壁も半分だけ出ていて、もの凄く特徴ある設計ですよね。
平屋の南側には下屋として屋根があって、それと平屋空間の屋根があります。その屋根が、おっしゃる通り北側に長いのはかなり特徴的ですね。北側にこんなに深い軒の屋根を出すことは普通だとあまりみられません。庇は南側の日射を遮るものですが、この北側の屋根下の空間は、夏の居場所として考えて作ったところなんです。ちなみに南側は冬の居場所ですね。
 

<はなれの軒と屋根>

 
このテラスの空間の特徴を細分化してみると、屋根の下の空間、陽のあたる空間と、リビングにつながる空間、3段階ぐらいの場所がグラデーションとともにあります。質問にあった袖壁は、デザインと構造をいろいろ検討した結果で、構造はかなり頑張りました。下まであると閉塞感があるので半分にして、柱にちゃんと力を流して視線は遮るという点ですね。日本の古い建築にも見られる、見せたいところだけを切り取る手法です。これらの工夫によって、単に屋根が掛かっているだけでなく、居心地のよい空間として使えるようにしました。ここは、瓦だと重量があるので、構造的に厳しい部分ですね。強靱で軽量な鉄建材だったからこその、自由度の効くデザインです。
 
 

強さと軽さを兼ね備えた鉄は建築に欠かせない存在

<深く張り出したはなれの軒部>

 
−−鉄建材に関する先生のお考えを聞かせていただけますか?
建築における鉄は、主要な材料のひとつ。鉄とコンクリートとガラス。この3つが近代建築を作ってきたと言われています。特に鉄は文明とともに使われて歴史が長く、自然の中に存在しているもの。鉄をそういう素材と定義してみると、人が住む空間においても重要な存在だと思っています。鉄といえば、まず思い浮かべるのは“強い”ということ。外界から生活を守るシェルターとしての建築を構成する上で、主要な存在として位置づけられると思います。
 

<鉄建材について語る金子准教授>

 
それに加えて、“軽い”というのも重要です。鉄の比重は大きく、素材そのものは重いですが、外装材としてはほかの素材と比べて軽いんですよ。つまり、単位あたりの強さと軽さ、そう考えるととても建築に向いている素材なのです。だからこそ、近代建築の主要な材料となったのでしょうね。一般的に住宅というと、木造住宅をイメージされる方も多いかと思いますが、木造住宅にも多くの鉄が使われています。住宅を構成する要素として、実は鉄というのは縁の下の力持ち的に貢献しているのではないでしょうか。
 

<玄関からより主屋1F廊下部を望む>

 
−−木造住宅にも鉄建材は使われています。鉄と木の相性についてはどのようにお考えですか?
一般の方って、木造住宅にも鉄が使われていることをあまり認識されていないように思うんです。現代の木造住宅には、適材適所で鉄が使われています。鉄と木の組み合わせは、ベストマッチと言ってもいいんじゃないかと思うくらい相性が良い。柔らかさ・しなやかさを持った木と、強さ・耐久力を持つ鉄。組み合わせることでより多様な住宅空間になると思っています。
 

<長尺の金属サイディングで作られた主屋の壁>

 
−−デザインや耐久性という観点からみて、鉄建材の印象はいかがでしょう?
手賀沼モデルの外壁は単なる凹凸ではなく、溝がV型になっているので、影がすごくきれいです。鉄ならではの素材感に加えて、加工性の良さを生かしたデザインで、鉄以外だと作り得ないものになっています。あとはデザインと耐久性のどちらにも通ずることですが、やはり軽いという特徴は非常に大きいですね。地震の多い日本において、やはり屋根や外壁の材料は軽い方が圧倒的に有利。耐震性に貢献する素材と言い換えてもいいかもしれません。そういった意味でも、鉄は優れた素材です。
 
−−イメージとして、鉄は重いものと思われがち。鉄の軽さがそこまで重要であることは、たぶんあまり知られていないように思います。まずは知ってもらうことが大事なんですね。
そうですね。大地震が起こった際に、重い建材は耐震的に不利になることが多い。過去に起こった地震被害から、屋根にも壁にも鉄建材という考えが少しずつ進んだように思います。手賀沼モデルには、デザイン面も含めて、鉄に対するイメージが変わることを期待しています。
 

<階段、鋼製手すり及び2Fの踊り場>

 
−−鉄と住まいの関係は、今後どのような関わりになっていくと思われますか?
歴史を振り返ると、人類は鉄を精製するために、森を破壊して火を燃やしていました。これは、鉄が頑張っていくために木が支えていたという風に置き換えることができると思うんですね。そして、環境の時代においては、木が頑張ることが重要となってきています。鉄が木を支える時代になっていると言えるでしょう。
 
注目したいのは、「脱炭素」「カーボンニュートラル」というキーワード。政府が2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、カーボンニュートラルを目指すことを宣言したことでも知られています。地球環境への負荷を下げながら快適な空間を作るというのは、私の研究のひとつでもあります。その視点でも、鉄建材は非常に可能性を感じる素材だと思います。
 
理由はいくつかありますが、まずはリサイクルです。鉄は磁性を持つ素材なので選別しやすく、解体した住宅からの選別やリサイクルも比較的容易です。これだけでも資源循環という面で、鉄建材がとても重要な役割を果たしているのがよく分かります。
 

<はなれの屋根及び鋼製雨樋>

 
もうひとつ、みなさんが鉄で思い浮かべることとして、錆びるという特徴があります。鉄は強い、という話と矛盾していると思うかもしれませんが、錆びることはネガティブに考えていません。錆びるということは、いずれ土に還るということ。放っておけば、自然に還っていく。こんなに良い素材って実はほかにないんですよね。
 
鉄に耐久性を持たせるため、人類は工夫を重ねて文明を進化させてきましたが、リサイクル性や、土に還るという側面を改めて我々は認識していくべきかと考えています。そうすれば、カーボンニュートラル達成に向けて資源循環のような新しい視点も持てますし、炭素を含んだ鉄と建築のあり方をより深く考えていけるんじゃないかなと、そんな風に思います。
 
 

パッシブデザインと鉄の関係性は?

<はなれ側から主屋を望む>

 
−−手賀沼モデルにはパッシブデザインというテーマもあるかと思います。パッシブデザインという言葉はまだ広く知られていないと思います。簡単にご説明いただけますか?
そもそもパッシブという言葉の意味をご存知でしょうか? 直訳すると、消極的とか受け身とか、そういう感じの言葉です。以前、パッシブデザインを海外に紹介する機会がありました。パッシブデザインのことを現地のネイティブに話したら、「そんなに消極的でいいのか?」「消極的な人が考えるデザインなのか?」みたいな反応をされました。パッシブの意味から考えると通常の反応ですが、真意は全く違います。もともと太陽エネルギーを活用するパッシブソーラーから始まった考え方ですが、私は、「自然体で、周辺にある環境要素、使えるものを全部受け取ろう」そういうデザインとして実践、説明しています。パッシブデザインは省エネルギー建築という風に受け取られがちなんですけども、誤解しないでいただきたいのは、目的は2つあるということ。親自然で快適に過ごすことと、省エネルギー。この両方を達成しながら建築のデザインとして形にするのがパッシブデザインです。
 
たとえば夏に、窓を締め切ってエアコンつけることが普通になっていると思いますが、気温が少し低い日や夜だと、もしかしたら窓を開けて風を通した方が快適かもしれませんね。外の様子に気づくとエアコンをつけないので省エネルギー、そして快適に過ごせる、これが先ほどの2つの要素の実践です。
 

<主屋側からはなれを望む>

 
−−手賀沼モデルだと、どのような部分にあたりますか?
平屋と2階建ての主屋を見比べると、建物の幅は少しだけ平屋が短くなっています。この平屋の横を通ってきた風を、2階建ての建物で受け止める配置になっています。風通しという面では、ほかにも南側に大きな窓をとる工夫をしています。それと同時に、風通しを良くするために、必ず風が抜ける側にも窓を配置。風は、入口・出口・通り道、3つ揃って通風が確保できるため、南側も北側も窓を配置しています。そうして、周辺の自然エネルギーと呼ばれる、太陽の熱や風を生活に取りこんで、パッシブデザインによって省エネ、そして快適に住むことができます。
 
あとは、テラスのような外部空間があると、そこですごす機会は自然と増えます。今まで屋内で過ごしていた時間を外で過ごせば、冷暖房や照明のエネルギーを使う時間が短くなり、省エネに加えて外とつながった生活も楽しめます。
 

<パッシブデザインについて語る金子准教授>

 
−−今後、パッシブデザインと鉄の関係性はどうなると思いますか?
快適な生活や省エネという視点でみると、鉄が直接的に強く関係する部分はないように思われるかもしれません。ただ、地球環境への負荷を減らすという視点では、省エネルギーと適切な資源循環は両輪であるべきだと思うんですね。そう考えると、これからのパッシブデザインでは、使う素材も十分配慮されるべきでしょう。その点で鉄は優先して使われる素材のひとつかと思います。これからますますカーボンニュートラルのような言葉が広がっていけば、省エネと資源循環の両輪が、いかにうまく回っていくかということが重要。そうすると、やはり鉄建材に光が当たるように思いますね。
 
 
金子 尚志 博士(工学)ご紹介

 
滋賀県立大学環境科学部環境建築デザイン学科准教授、ESTEC and Partners主宰。自然エネルギーや地域環境を建築デザインに統合した「パッシブデザイン」、室内外の環境・気候をデザインの対象として捉え、環境工学的な技法を巧みに援用した「クリマデザイン」、環境と共生・応答する建築、エコロジカルな集合の形態、サステイナブルな都市システムなど、これらの研究、計画、設計を実践。
 
*手賀沼モデルの取材に当たっては、施工者である「株式会社ハウスギア」様にも多大なご協力を頂きました。紙面ではありますが厚く御礼申し上げます。
 
 

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