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【シリーズ特集】鉄と住まい <第3回 鉄と木が調和する住宅「手賀沼モデル」>

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前回の記事【シリーズ特集】鉄と住まい <第2回 鉄から住まいを考える>
 
全4回のシリーズ特集「鉄と住まい」。第3回は、2021年度グッドデザイン賞を受賞した戸建て住宅「AREA-TEGANUMA ・パッシブデザイン手賀沼モデル」をご紹介していきます。この手賀沼モデルは千葉県柏市の手賀沼の南にあり、金属屋根や金属サイディングなど多種の現代先進建材を使用した住宅モデルとなっています。設計はESTEC and Partners、滋賀県立大学 金子研究室。建物に使用している素材の特徴や、地域の特性に適したパッシブデザインの設計プロセスなど、手賀沼モデルの魅力を解説していきます。
 

手賀沼モデルの基本情報

 
まずは、手賀沼モデルの全体像についてご紹介します。北側に主屋、南側にはなれがあり、主屋とはなれの間にはテラス(ウッドデッキスペース)、北と南両側にそれぞれ庭があるという南北に長い構成です。
 

 
敷地面積499.21㎡(151.01坪)に対して、建築面積は122.56㎡(37.08坪)という大胆な敷地の使い方をしています。主屋は2階建てで、1階と2階を合わせた延床面積は127.53㎡(38.58坪)。1階にはキッチンとLDK、2階にはベッドルームが2つ、バス、ウォークインクロゼット、階段ホールスペースがあります(トイレも各階に1つずつ)。はなれの延床面積は56.31㎡(17.04坪)。図書室や集会スペースなどさまざまな目的で利用できます。建物内も窮屈さを感じない、ゆったりとした空間が広がっています。
 



 
 

外と中でガラリと見た目の印象が変わる家

 
屋根は葺き方、勾配、雨漏りが少ない形状にするなど、機能的で意匠性の高いデザイン。主屋は立平葺き屋根、はなれは化粧スレート葺き風の新タイプの重ね葺き金属屋根、庇(ひさし)は緩勾配の立平葺きとなっています。いずれの屋根・庇にも、つや消し黒色の塗装ガルバリウム鋼板を用いることで、鉄素材の特長を活かしつつ周辺の瓦屋根の景観に溶け込むよう考慮されています。大きな屋根を作りやすい点も鉄素材ならではの特長であり、鉄素材の特徴が大いに活かされたデザイン性の高い家を実現しています。
 

 
建物の外観はシンプルかつシャープなデザインで、凹凸のある壁面が特徴的です。鉄素材で構成されていることから、堅牢性という点では安心感を与えてくれます。外壁は、銀黒色の塗装ガルバリウム鋼板を表面材に使用したシンプルなストライプデザインの金属サイディング。継ぎ目のない長い材料を使えるのも鉄素材の特徴で、鉄の素材感と美しさが際立つデザインになっています。「色合いが少ないのにおしゃれに見える」「洗練されたカッコ良さを感じる」のような感想を抱く方も少なくないと思いますが、それらは鉄素材の特徴を活かしてデザインされた住宅の外観ならではの感想でしょう。
 

 
鉄の素材に視線を奪われがちになりますが、入り口やテラス、庇の支柱などには天然木材が使われています。これだけ鉄の割合が多いのにも関わらず、外観が全く無骨に感じないのは、木の優しい雰囲気と鉄の強さが相乗効果をもたらしているからかもしれません。主屋・はなれの中に入ると、今度は木が意匠の主役となり、雰囲気も一変します。外と中で大きくイメージが変わる独創的な設計も手賀沼モデルの魅力といえます。
 
 

パッシブデザインって何?

 
手賀沼モデルは自然豊かな地域の特性を生かした“パッシブデザイン”の住宅です。パッシブデザインとは、機械を使わずに太陽の光や熱、風などの自然エネルギーを最大限に活用し、より快適で健康に過ごせる建築設計の考え方と設計手法のことです。別の言い方をするならば、地球に負担をかけない家づくりの方法ともいえます。大げさに聞こえるかもしれませんが、住んでいる地域の自然をエネルギーとして生活で使えると考えたら、より快適に自然に寄り添って過ごせそうですよね。さらに、地域の景観や文化などに配慮するのもパッシブデザインの特徴です。この手賀沼モデルも、地域の気候を読み解きながら温熱・気流・採光を考え、地域の景観などにも配慮したパッシブデザインの建物です。
 

 
◎採光と温熱
日中の太陽の光を活用するため、南側に大きな開口部とともに適切に調整された庇が設けられており、夏は直射日光を遮蔽し、冬は自然採光が得られるような構造になっています。建物が南北に縦並びになっているのも、時間や季節によって変化する太陽の動きに考慮しているから。夏は南の窓のブラインドで太陽の熱を制御して、北の窓から空の光を取り込むことで、暑さを防ぎながら自然採光で室内空間を明るくすることができます。冬になると、南の窓から日射を取り込み、北の窓はカーテンやブラインドなどで調整することで、暖かく明るい室内環境を作ると同時に北からの熱損失を減らすことを意図しています。開閉する窓を変えることで、季節ごとに適した部屋の温度や明るさが手に入れられる工夫は驚きですよね。
 

 
◎通風
主屋とはなれの両方に、南北二面とも大きな窓を設けて南北方向の通風を確保しています。袖壁と主屋2階のインナーバルコニーに設けた窓によって風を取り込む工夫もされており、建物全体でスムーズな通風が可能になっています。さらに、幅の狭いスリット状の縦滑り窓を設けることで、夜間の就寝後や外出時にも窓を開放して換気を確保することができます。どの窓にもそれぞれ意図があって、状況に合わせて風が取り込めるというのは、住む人の快適さをしっかり考えていることが伝わる優しいポイントです。
 
このように、手賀沼モデルには自然エネルギーを最大限活用できるような創意工夫がなされています。広い敷地に対し、あえて建物の占有面積を小さめに設定しているのも、採光や通風の条件を整えるため。何もない更地の段階から周辺環境と室内環境に配慮した計画によって建てられたと考えると、見え方も変わってきて面白いですよね。
 
 

「自分らしく生きたい」の想いからできた住まい

 
手賀沼周辺は、東京までの直線距離は約30㎞と都市部に近い立地でありながら豊かな自然も併せ持つエリア。その環境ポテンシャルをパッシブデザインとして活かしたのが手賀沼モデルなのですが、どうしてこのような建物が生まれたのでしょうか。かつては、家を建てる人の行動理由は「夢のマイホームを持ちたい」という漠然としたものも少なくありませんでした。しかし、現在は「自分らしく生きたい」というライフスタイルを重視した住まいを求める傾向が強くなっています。所有する家から住まう家に変化しているようですね。
 
手賀沼モデルもその思考から誕生した建物のひとつ。再評価されるべき東京周辺部の自然豊かなエリアにおいて、ライフスタイルとともに高性能住宅を提案した結果として生まれたのです。デザインも、地域集落の屋根から発想し、鉄の素材感を景観として溶け込むよう考えられています。立地特性をデザインとして組み込んだ独自性の高い高性能住宅。多様性を尊重する時代を迎えているいま、ライフスタイルを重視する人たちが手賀沼モデルのような、それぞれの「自分らしく」を追求した住まいが増えていくかもしれませんね。
 
<第2回 鉄から住まいを考える>では、鉄に対する住まいの要求性能についてご紹介しました。鉄は強度・靭性・加工性に優れ、省エネ・耐震性・抗菌性という観点からも、今後の住まいにおいてさまざまな役割が期待されている素材です。また、鉄素材は資源循環の視点から地球環境への貢献が期待できるという点も大きな特長のひとつです。この手賀沼モデルでは、鉄に期待されている役割はもちろん、意匠という観点からも有用であることがよく分かります。次回、シリーズの最終記事では、手賀沼モデルの設計者、金子尚志准教授のインタビューを掲載予定。手賀沼モデルのさらなる魅力を知ることができるので、ぜひそちらもチェックしてみてください。
 
【シリーズ特集】鉄と住まい <第4回 「手賀沼モデル」を支える鉄建材の特徴>
 
 

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