国宝・阿弥陀三尊像の美しさのヒミツは屋根と天井にあった?
不思議な関係の2つの国宝
長い歴史のあるわが国には、建造物や美術工芸品といった数多くの国宝があります。また、文化財と呼ばれるものもありますが、その違いは何なのでしょうか? 文化財とは、文化活動によって生み出され、文化財保護法に基づき保護されるものを指します。文化財には有形と無形のものがあり、有形文化財の中でも重要なものが重要文化財になります。また、重要文化財のうち特に文化的かつ歴史的な価値の高いものが国宝として指定されているのです。
国宝にはさまざまな種類があり、まずは大きく建造物と美術工芸品に分けられます。そしてさらに、美術工芸品は絵画・彫刻・工芸品などの7種類に分類されます。その中から今回ご紹介したいのが、兵庫県小野市の浄土寺浄土堂とそこに安置されている阿弥陀三尊像です。
国宝は、ひとつひとつが類のない魅力と価値を持つものですが、浄土堂と阿弥陀三尊像には不思議な関係性があります。仏像の美しさを、浄土堂という建物がさらに高めるという仕掛けがあるのです。その仕掛けとはどのようなものか、またそのヒミツについてお話しします。
浄土堂で見られる光の芸術とは
浄土寺は鎌倉時代初頭、重源上人によって建立されました。その敷地の中央には八幡神社が位置し、その手前に薬師堂と浄土堂と呼ばれる建物が、池をはさんで向き合うという一風変わった配置となっています。この浄土堂とその堂内に安置された阿弥陀三尊像は、ともに国宝に指定されています。
阿弥陀三尊像は、中央におよそ5mの高さの阿弥陀如来像、向かって左右にともに4m足らずの勢至菩薩像、観音菩薩像の三体からなります。作者は歴史的にも有名な仏師の快慶で、阿弥陀が来迎(らいごう)する様子を再現したものと言われていますが、その美しさがしみじみと堪能できるのが晴れた日の夕暮れどきです。
夕刻になると三尊像の背後にある蔀戸(しとみど=格子戸)から西日が差し込み、阿弥陀三尊像に後光がさすように浄土堂の中が真紅の光に包まれるのです。それは、まさに光を背負った阿弥陀や菩薩がこの世にあらわれたかのような幻想的な美しさで、光による舞台芸術とも評されています。
なぜ、このような演出が可能なのでしょうか? そのヒミツは浄土堂の屋根と天井にあります。
浄土堂の屋根と天井のヒミツ
浄土堂の建築様式は大仏様宝形造(だいぶつようほうぎょうづくり)と呼ばれる、今となっては希少なもので、急勾配の寄棟屋根は本瓦葺きです。一見して軒が低く思えますが、それは直線的な急勾配の屋根との対比によるもの。実は、この屋根の急な勾配が光を演出する仕掛けとなっています。
浄土堂の天井は釣り天井のない、言わば、勾配天井の状態です。軒下の蔀戸から差し込む西日は堂内の赤い床に反射し、その反射光が赤を基調とした天井に反射して阿弥陀三尊像にふりそそぎ、堂内を赤く染めます。浄土堂の屋根勾配はこの光の反射のために計算されたものだったのです。
窓からは直接入る陽光もあり、三尊像の足元の雲座(雲をかたどった台座)をかすませ、阿弥陀様が雲に乗って浮かんだように見せます。また、天井を装飾する赤い格子が効果線のような働きをし、光のショーに動的な印象を与えているのです。さらに、浄土堂の西側に位置する池の水面の反射によって、より多くの光が堂内に差し込むようになっています。
浄土寺が建てられたのは約800年前。その時代に、ここまで緻密に計算された技術や美意識があったことに驚きますね。国宝を守り美しく演出する屋根を作り出した建築技術も国の宝と言えるでしょう。
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