【シリーズ特集】鉄と住まい <第1回 鉄と人間の歴史>
強度や耐久性、加工性にも優れた素材である”鉄”。みなさんが暮らしている住宅にも、建材として重要な役割を果たしている素材です。いまや鉄と住宅は互いに切っても切り離せない存在ですが、その繋がりについて知るべく、全4回のシリーズ特集「鉄と住まい」にてご紹介していきます。第1回は、鉄と人間の歴史について。鉄はどのように人々の生活に関わるようになったのでしょうか。
文明の発達に不可欠だった鉄
鉄と人間が歴史上で関わりを持ち始めたのは紀元前。2017年に日本の調査団がトルコ中部の遺跡で、紀元前2200年から2300年の地層から最も古い部類に入る人工の鉄を発見したというニュースが報じられました。このことから、紀元前2000年以上も前から鉄の文化が存在していたことになります。日本に伝来したのは紀元前3世紀ごろだと考えられていて、弥生時代後期あたりから製鉄が始まったといわれています。その後は長い歴史を経て生活品としても普及するようになり、戦国時代には武具、現代では車やビル、さまざまな機械に使われるなど、文明の発達に不可欠な存在として鉄は私たちの常に身近にあり続けました。19世紀ドイツでは「鉄は国家なり」という言葉が、ビスマルクの演説から生まれます。鉄の生産量は国力を表す指標という意味が込められており、当時から人々が鉄の存在に支えられているのかがよく分かりますね。なお、文明の発達に欠かせなかった鉄ですが、日本で住宅に利用するようになったのは戦後になってからなのだそう。それでは次に、鉄を使った建造物にも目を向けてみましょう。
鉄と建造物の歴史
アイアンブリッジ(イギリス、1779年)
世界で最も古い鉄構造の大型建造物は、イギリスのアイアンブリッジ(1779年)です。世界遺産にも登録され、産業革命の象徴とも言える鉄橋の完成を機に、世界中にさまざまな鉄構造が誕生しました。日本初の鉄骨造(S造)の建造物は、秀英舎印刷工場(1894年)です。当時の日本にはまだ鋼の技術がなかったので、鉄骨は全てフランスから輸入して建てられました。日本でもこのあたりから鉄骨造が増えていき、東京駅や東京タワー、霞が関ビルディングなど数々の建物に採用されています。特に東京タワーはエッフェル塔と同じトラス構造を用いながらも約半分の鉄量で建てられており、数十年間で製鉄技術が進歩している事実が顕著に表れています。
また、鉄を使った住宅と聞かれると、真っ先にマンションが思い浮かぶ方は多いのではないでしょうか。マンションは、鉄とコンクリートの組み合わせである鉄筋コンクリート造(RC造)が圧倒的に多く、鉄構造の住宅として最もイメージしやすいのではないでしょうか。世界で初めて鉄筋コンクリート造の住宅ができたのはフランス・フランクリン通りのアパート(1903年)です。日本では鉄構造の住宅が主流になったのは戦後ですが、それより以前にも鉄筋コンクリート造(RC造)の住宅は存在しました。長崎県の端島、通称・軍艦島に建てられた集合住宅・30号棟が日本初のRC集合住宅です。
軍艦島の集合住宅・30号棟(日本、1916年)
無骨な印象を受ける建物ですが、完全に無装飾の集合住宅が実現したというのも建築史上において重要な出来事になりました。これを皮切りに、中村第一共同住宅館や古石場第一住宅など、鉄筋コンクリート造のアパートが増えることになります。そして、戦後には日本初の分譲アパートとして宮益坂アパート(1953年)も完成。その後は高度経済成長の時期とも重なり、鉄骨造や鉄筋コンクリート造の住居が当たり前の存在となっていきました。
現代の建築も鉄が支える
建造物だけではなく、人は鉄と別素材の利点を組み合わせることで、さまざまな道具を作ってきました。たとえば木と鉄の組み合わせなら、農器具、扉、北京鍋、椅子などですね。これは近年の戸建て住宅にもいえることで、広範囲に渡って住まいを支えています。
1. 屋根材
鉄のもつ延性を利用して、薄い鉄板とすることで、構造の軽量化をはかり耐震性を向上しています。
2. 耐力壁
通常の合板と異なり、繰り返しの地震にも効果のある耐震壁です。鉄のもつ強度と靭性、延性を利用して、住宅を支えます。
3. 家電
薄く延ばして自由な形状を作り、デザイン性の高い家電製品が多く見られるようになってきました。
4. 外装
室内を雨風から守る外壁材。鉄のもつ延性を利用して、薄い鉄板とすることで、軽量化によって耐震性を向上しています。
5. 構造
住宅にはアンカーボルトなど多くの鉄製金物が使われています。鉄のもつ強度と靭性を利用して耐震性を向上し、安全安心な住まいを作ります。
6. インテリア
キッチンなどの利用頻度が高く、耐久性が求められる部分に使われています。強度が高いので耐摩耗性にも優れています。
このように鉄素材は長年の歴史を経て、現在の私たちの住まいに密接に関わっています。家電や家具など、人が触れる部分、柱梁や耐震壁などの構造、雨風から守る屋根や外壁などの仕上げ部分まで、さまざまなところで使われています。
デザイン性の高い鉄建材メインの住宅も登場
現代の建築にはデザイン性の高い鉄建材の使い方も見られます。2021年度のグッドデザイン賞を受賞した「パッシブデザイン手賀沼モデル」は、地域の景観に融合する勾配の異なる連続した屋根、1階から2階まで継ぎ目のない外壁などは、鉄だからこそ実現できたこと。鉄の特徴を活かした形の工夫や、表面の加工性が建築の可能性を広げています。
AREA-TEGANUMA ・パッシブデザイン手賀沼モデル
大昔から現代にいたるまで、鉄素材は歴史とともに強度を高めながら人の生活を支えてくれています。鉄と人がどのように交わり、建造物に鉄が使われるようになったのかを知った上で周りの建物に目を向けてみると、これまで気に留めていなかった印象を受けるかもしれませんね。
次回【シリーズ特集】鉄と住まい<第2回 鉄から住まいを考える>
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