素材も形も違うヨーロッパの屋根
世界には、長い歴史とその土地の気候や暮らしに合わせて発展した、多種多様な屋根があります。日本で見られる洋風建築も、元をたどればヨーロッパの雰囲気を取り入れたもの。そんなヨーロッパの屋根にも、北や南など地域ごとで使用する屋根材やデザインに特徴があります。今回は、ヨーロッパの建物に使用される屋根についてご紹介していきます。
代表的な屋根材は瓦とスレート
まずは屋根材にフォーカスしてみましょう。日本の和風建築で想像するのは、厳かな印象を受けるいぶし銀の日本瓦(和瓦)。一方、洋風建築の屋根と聞かれれば「オレンジ色の瓦」をイメージする人が多いのではないでしょうか。ヨーロッパの中でもイタリア、スペイン、ギリシャなど、穏やかな気候の南欧では、実際に赤色やオレンジ色の瓦が広く使用されています。
ではなぜ、赤みがかった瓦が多いのでしょうか。その理由は、瓦の焼成方法と鉄分を多く含む粘土にあると言われています。瓦の焼成方法には主に2種類があります。
・還元焼成(酸素不足の状態で焼成)
・酸化焼成(酸素を十分に送り込んで焼成)
酸化焼成でできる瓦は色が赤くなります。酸化焼成は還元焼成と比べて工程が少なく、コストが抑えられるという利点もあります。
また、ヨーロッパは景観規制が厳しいことでも有名です。規制がある区域では、たとえ新築住宅でも周りと似た色や素材の使用を求められる場合があります。このような背景もあり、歴史ある南欧の町並みにはオレンジ色の瓦屋根が多く見られるのです。
瓦以外だと、スレートもヨーロッパのスタンダードな屋根材です。重厚な見た目と自然な色合いが特徴のスレート屋根は、ヨーロッパの古い教会やお城の屋根にも使われています。ドイツのフロイデベルクという町では、モノトーンで統一された木造住宅群があり、その屋根には全てスレートが使用されています。なお、日本で多く見られるスレートは、化粧スレート(セメントに繊維素材を混ぜるなど人工でできたもの)ですが、ヨーロッパで古くから使用されるスレートは、天然の岩石からできている天然スレートです。
ほかにもオランダや自然由来の素材を大切にする北欧諸国(ノルウェー、スウェーデン、デンマークなど)など、茅葺き屋根が使用されている地域もあります。茅葺き屋根の中には日本人がイメージする茅葺き屋根とは異なるスタイリッシュなデザインも存在。特にオランダは新築に茅葺き屋根を採用する許可を出している国なので、想像以上にデザイン性の高いものもあります。この意匠への強いこだわりが、日本の茅葺き屋根との一番の違いかもしれません。
屋根の形状は気候の違いによって変化
ヨーロッパという広大な範囲で見ると、場所によって気候や生活スタイルに差があるのは当然のこと。屋根の形状も、それに合わせた違いがあります。
地中海沿岸部が含まれる南欧の夏は、日差しが強く乾燥し、ほとんど雨が降らない地域です。そのため、平らまたは緩やかな傾斜の屋根が多く見られます。日本では雨が多いので軒の深い家が一般的ですが、雨が少ない南欧は深い軒をつくる必要がありません。もし日本で軒が浅い住宅を見かけたら、南欧風のデザインを意識して建てられているかもしれないですね。
一方で、厳しい寒さや雪の多い北欧では、急勾配の屋根が広く使用されています。その理由は日本と同じで、屋根に積もった雪を自然に落し、建物への負担を軽減するためです。長く使用するためにも、急勾配の三角屋根にしている家が北欧には多く存在します。
中欧は、南欧や北欧ほど屋根の形に極端な特徴はないものの、ドイツの古い建築物には半切妻屋根が多く採用されているのだそう。半切妻屋根は、別名ドイツ屋根とも呼ばれており、切妻屋根の妻を一部切り取った、寄棟屋根に近い形状をしています。
都市開発で生まれた環境に優しい屋根
サステナブルな社会の実現に向けて、さまざまな取り組みがおこなわれているヨーロッパ諸国。特にドイツとスウェーデンの都市開発プロジェクトは、成功事例として注目を集めています。その中から屋根という観点で、環境に配慮した屋根をご紹介していきます。
ドイツ・フライブルク市の南に位置するヴォーバン地区は、住まいが全て集合住宅という特徴があります。屋根だけでなく建物全体に断熱性の高い素材が使用されており、暖房にかかるエネルギーを抑えています。また、角度10度以下の平屋根には屋上緑化(グリーンルーフ)を義務化。環境に優しい効果を発揮すると同時に、自然と調和した街の景色を作り出しています。
スウェーデンのストックホルム市中心部、その南部にある住宅街のハマービー・ショースタッドは、国を代表するエコタウン。かつてオリンピック開催地として立候補した際、ハマービーを選手村とする計画が立てられました。その後、オリンピック開催を逃すものの、住宅開発は続行。当初から環境に配慮した居住施設を目標とし、自然エネルギーと廃棄物を徹底利用するため、多くの建物の屋根にソーラーパネルが設置されました。その結果、太陽エネルギーを発電や給湯に活用し、環境負荷の削減に大きく貢献しています。
ヨーロッパの屋根文化は、南欧のオレンジ色の瓦屋根、北欧の急勾配屋根、中欧のドイツ屋根など地域の気候や生活に合わせたデザインと工夫で成り立っています。近年ではグリーンルーフやソーラーパネルなどを取り入れた屋根など、環境に配慮した屋根が増えています。サステナブルな社会の実現に近づくほど、伝統的なデザインと新しい技術を組み合わせた屋根が増え、そういった新しい屋根文化がヨーロッパの屋根のスタンダードになっていくのかもしれませんね。
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