過酷な自然との闘い〜北海道の屋根の歴史と進化〜
地域によっては冬と夏の気温差が60度にも達し、冬は一日に1メートルも雪が積もる過酷な気象の北海道で、断熱性や気密性を確保するための建材の役割は極めて重要です。
明治時代に開拓使が入植して以降、道外とは異なった進化を遂げてきた北海道の建材。今回は鋼板屋根に焦点をあててみました。
北海道の屋根材の歴史
北海道の先住民族であるアイヌの人々は「チセ」と呼ばれる茅葺き屋根の家に住んでいました。もともとススキやヨシなど茅の材料になる植物が乏しい北海道では、笹や樹皮などが茅の代用として使われていたようです。
明治時代になり、道外から開拓使が来るようになると洋風建築が栄え、道庁や時計台に見られる金属屋根の施工が始まりました。とはいえ当時の金属は高価であったため、一般住宅では各地域に潤沢にある松を用いた柾葺きが主流となっていきます。
1954年、三晃金属工業は旧国鉄宗谷線幌延駅職員宿舎の屋根に東京から成型機を持ち込み、道内で初めて金属長尺屋根の成形・施工を行いました。これがきっかけで国鉄(現JR)、電電公社(現NTT)はじめとする官公庁が大型の金属屋根の採用を本格的にスタート。その後、民間の工場や店舗にも使用されるようになりました。
「金属屋根の王国」北海道の成り立ち
北海道における板金加工業の歴史は意外と古く、明治時代には屋根加工業者の組合が存在していたようです。
1906年に官営八幡製鉄所が設立され亜鉛鉄板の量産が始まりましたが、その頃の屋根材の板金加工はいわゆる職人の技、一枚一枚を菱葺きや一文字葺きなどに加工していく方法で、材料費に加え加工費がかかり、大量生産には向かず、消費には対応できない状態でした。
前述の長尺屋根の登場はまさに画期的で、それまでの施工で弱みとされていた雨漏り、すがもれ(積もった雪が熱で溶け、軒先で再凍結し行き場のなくなった水が屋根の継ぎ目から漏れる現象)を補うばかりでなく、施工性の良さから工場や倉庫などの大規模な建物にも対応できるようになります。
それまでの菱葺き、一文字葺きから瓦棒葺き、立平葺き、蟻掛け葺きへと形を変え、耐風圧性、耐積雪荷重、断熱効果を得るための気密性も向上していきました。
また、札幌のような住宅密集地ではそれまでの急勾配の三角屋根だと隣地への落雪の恐れがあるため、スノーダクト方式という陸屋根形式が主流に。陸屋根のような緩勾配の屋根では雨漏りが懸念されますが、フラットルーフ工法・ストッパールーフ工法などの新たな工法の開発や、板金職人の高い技術力で進化を続けています。道外の方が北海道を訪れたとき、新千歳空港から札幌の町に入っていく車窓に見える住宅は、ほとんどが陸屋根であることに気づかれるのではないでしょうか。
広大な土地をカバーするネットワーク
鋼板屋根の材料は1992年頃、それまでのトタン(亜鉛鉄板)からガルバリウム鋼板へと変化していきます。近年ではガルバリウム鋼板に改良を加え、より耐久性が向上したエスジーエル®も道内ではシェアが拡大。さらにこれらに適した金属屋根の成形・加工の技術や成型機械、工具も日々更新され、屋根材のみならず北海道仕様のあらゆる建材の開発・生産により「真冬でも部屋の中ではTシャツでアイスクリーム食べる」といわれるほど快適な住宅の施工が叶ってきました。
こうした材料の変遷や工法の改良のネックとなるのが、北海道のあまりにも広大な土地です。道外からの材料が集まる苫小牧や小樽といった港町や商業流通の中心地である札幌・旭川から、稚内・釧路といった遠隔の消費地までは東京から大阪と同程度の距離があります。北海道全体の面積も東北6県に新潟県を加えるのと同じくらいの広さ。この広大な北海道各地に点在する板金業者への新製品の情報や品質・技術交流などを活性化し、材料供給を安定化するために機能しているのが各種の組合や会合です。中には鋼板メーカー主導で行われている組合・会合も。板金業者もこのような交流の場を求め積極的に参加し、遠隔地で生産を行う鋼板メーカーと地元板金工事業が密接につながっている流通構造も確立されています。
これからの鋼板屋根材のありかた
昨年のベースボールパーク建設や、これから始まる大型IT関連施設の建設や各都市の再開発などの大型物件をめがけ、道外の流通や建設会社も多く北海道に訪れるようになりました。これにより新たな建築技術や商品が取り入れられ、やがて住宅にも波及していくであろう変革の時期にきています。
近年では、鋼板を使わず防水シートで屋根を施工するシート防水工法や石付き屋根材もポピュラーになってきました。金属屋根の王国といわれた北海道の屋根事情も様変わりしようとしています。北海道の過酷な気象条件は変わりません。これからも、道外の商品や技術が北海道流のアレンジを加え今後も進化を遂げていくでしょう。
それを支えるのは地域に根差した工事店とそれを結ぶネットワーク、なによりたゆまざる技術革新の精神です。
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