とんがり屋根の異人館 風見鶏の大切な役割とは?
神戸北野を代表する異人館
歴史ある異人館が建ち並び、多くの観光客が訪れる神戸市北野地区。その中でもひときわ有名で、この街を代表する建物が「風見鶏の館」の愛称で親しまれる旧トーマス邸です。なぜ、そう呼ばれているかは、その外観を見ればすぐにわかります。
その外観の大きな特長は、尖塔といえるほどの急勾配のとんがり屋根とその先に取り付けられた金属製の風見鶏。1970年代にテレビドラマの舞台になり、全国的に知られるようになりました。
風見鶏の館は、ドイツ人建築家のゲオルグ・デ・ラランデの設計により、1909年(明治42年)ごろ、同じドイツ出身の貿易商であったゴットフリート・トーマス氏の自邸として建てられました。れんがの外壁にハーフ・ティンバー(木骨構造)の2階部分や石積みの玄関などを組み合わせた造りで、屋根は塔屋つきのスレート葺き寄棟(よせむね)造りとなっています。
デ・ラランデとスレート屋根
れんがの壁の異人館は神戸でもめずらしく、重厚な造りながら、あまり重さを感じさせないエレガントなイメージがこの建物にあります。それは屋根のデザインのせいかもしれません。細いとんがり屋根となだらかな寄棟の屋根はスレートで葺かれています。
スレートは薄い板状の屋根材で、このとんがり屋根のような急勾配から緩い勾配の屋根にまで対応できます。旧トーマス邸の屋根のデザインはスレートの特長を活かしたものといえますが、その質感と屋根の形状がうまくマッチして軽やかなリズムをつくり出しています。
設計者のデ・ラランデは、1900年代初頭、旧トーマス邸以外にも日本でさまざまな建築を手がけました。1910年(明治43年)ごろには東京都新宿区(現在は東京都小金井市の江戸東京たてもの園に移築)に自邸を建てましたが、この家も屋根が特長的です。スレート葺きのマンサード屋根と呼ばれる上部は緩く下部は急な2段階の勾配がついたもので、ユニークな表情の屋根となっています。
風見鶏の本来の役割
さて、話を風見鶏の館に戻しましょう。
とんがり屋根とその先端の風見鶏はおしゃれなアクセントになっていますが、実は、この鶏は単なる装飾品ではありません。本来、風見鶏には風向計という大切な役割があるのです。
風向計とは、風が吹いてくる方向を測定する器械で、現代では、飛行機の垂直尾翼のような形で風速計を兼ねたものがよく使われます。風見鶏は最もシンプルな気象観測器になりますが、正しく風向きを測るには、鶏がつねに風に向くようにしなければなりません。旧トーマス邸の風見鶏は当時の最高水準のベアリング技術により作られたものでした。
また、高い尖塔を備えた旧トーマス邸のスタイルは一般の住宅としてはめずらしいものですが、それは風見鶏を設置するためだったと考えられます。風向計を設置するのは、高いのはもちろんのこと、障害物のない広く開けた場所が望ましいからです。
旧トーマス邸の風見鶏の意味
では、なぜ、旧トーマス邸に風見鶏が設置されたのでしょう?
この家のオーナー、トーマス氏は貿易を営んでいましたが、そのビジネスにとって風見鶏は大切なものでした。当時の物流は海上輸送が主流で、風向きは船の運航に大きく関わります。トーマス氏は風向きを読むことで、貨物船の運航状況といつごろ神戸港に積み荷が到着するか予測していたのです。
デザイン的にも美しいとんがり屋根と風見鶏には、こんな重要な意味があったのです。旧トーマス邸が建てられてから100年以上が経ちましたが、そのシンボルの風見鶏は今日も風に吹かれながら神戸の街を見守っています。
ライフスタイルのおすすめ記事
-
屋根を見れば建てられた時代がわかる このところ、伊勢神宮の式年遷宮と出雲大社(写真)の大遷宮が重なり、京都では下鴨神社、上賀茂神社の遷宮が続きました。その話題はテレビやネットなどでも取り上げられ、日本国内はもちろん、外国…
-
屋根勾配がデザインのポイント? 歴史に残るおしゃれな屋根の家
おしゃれな家は屋根がポイント? 「おしゃれな家を建てたい!」と思ったら、何を参考にすればいいのでしょうか。まずは建築の歴史に残るおしゃれな住宅を見ることをおすすめします。とりわけ1920年代に成立したモダニズムと呼ばれる…
-
茅葺き屋根は日本だけじゃない? この5月に開催予定の伊勢志摩サミットで注目される伊勢神宮。その本殿の屋根は急な勾配がついた特徴的な形をしています。これは、板の上に草で葺かれた茅葺屋根であるためです。茅葺きの「茅」とは、ス…
-
和室があれば、何かと便利? ライフスタイルの欧米化にともない、現代は和室のない家が増えています。これから家を建てるなら、欧米風のモダンな家にしたいと思う人も多いでしょう。そんなおしゃれな家には和室は不要かもしれません。 …
-
美しい街並を作り出すものとは ぬけるような青い空に映えるオレンジ色の屋根と白い壁の家並、??そんな南欧の街並にあこがれる人は少なくないでしょう。地中海の青い空と美しいコントラストを作り出している屋根はテラコッタと呼ばれる…
-
住宅リフォームで人気のプランと言えば、やはりフローリングの張替えではないでしょうか。フローリングを新しいものに変更するだけで、室内の印象を大きく変えることができます。ここでは、フローリングの種類やその他の床材、特徴などに…
-
おしゃれな家にするために リビングの間取りとインテリアづくりの注意点
リビングは住まいの中心だから 住まいの中でも、中心となる場所はどこでしょう? それは、家族みんなが集まる場所、つまりリビングルームです。 リビングは家族みんながくつろいだり、友人や来客を招いておもてなししたりと、家族にと…
-
はじめて家を建てるにあたっては、夢のマイホームを手に入れる喜びがありますが、建てた後の「安心」についても考えておかなければなりません。特に近年、大型台風や集中豪雨など異常気象による被害の様子が毎年のように報道されています…
-
ライフスタイルは変わるものだから 家は長年にわたって暮らすもの。家を建てることになったら、いつまでも家族みんなが快適で暮らしやすい住まいにしたいものです。とはいえ、年月が経つうち、住む人のライフスタイルは変わっていきます…
-
海辺の家であこがれのライフスタイル 南の島の茅葺き屋根のリゾートホテルで海を見ながら過ごすひととき…自宅でそんな気分を味わえたら、と思ったことはありませんか?海の見える家にあこがれている方は少なくないかもしれません。 そ…
その他のおすすめ記事
-
リフォーム
家にはリフォーム、リノベーションがつきもの? マイホームを購入したら、いつまでも快適に暮らしたいものです。しかし、家は暮らしているうちに必ずリフォームしたい箇所が出てきますし、年数が経てばリノベーションを検討することもあ…
-
メンテナンス
屋根はいつか「葺き替え」が必要に 家は長年にわたって住み続けるもの。戸建住宅でいつまでも快適に暮らしていくには、内外装や設備の適切なメンテナンスやリフォームが欠かせません。住まいの快適さを支えるのは住宅の性能ですが、住宅…
-
屋根
夏になると家の中はどうしても暑くなってしまいますよね。 でも、室内が暑いのは外の気温のせいだけではありません。実は、家の作りによって、室内がとても暑くなってしまう場合があります。ここでは夏に室内が暑くなってしまう原因や、…
-
屋根
屋根における重要な要素 屋根は住宅の外装の大きな面積を占める部分です。そのため、その形状や材質は家の外観イメージ並びに住宅の性能に大きく影響します。屋根には形状、軒の出幅といった要素がありますが、特に重要な要素が勾配(屋…
-
メンテナンス
こまめに塗装しよう! スレート屋根のメンテナンス方法とタイミング
かつての主流だった和風住宅から、洋風住宅へ。日本の建築様式の移り変わりと共に高い需要が続いている 屋根材が「スレート屋根」です。薄くて軽い板状の素材「スレート」を使用したスレート屋根の寿命は約20年~25年と言われていま…
-
リフォーム
家の状態を長く良好に保つためにできること 新築から数年経ったわが家の屋根や外壁が汚れてきたら、どうすればいいのでしょう。外にさらされている部分だから、多少の汚れは仕方ないでしょうか。 いいえ、その汚れは屋根や外壁リフォー…
-
屋根
屋根の色が変わっていく? 世界遺産 姫路城の屋根修理のヒミツ
姫路城の屋根の色は白? それともグレー? 国宝であり、日本で初めての世界遺産である姫路城は、白鷺城(はくろじょう、しらさぎじょう)とも呼ばれ親しまれてきました。そう呼ばれるゆえんは、天守群のシルエットが、まるで鳥のシラサ…
-
屋根
近年ではスマートハウスやゼロエネルギーハウス(ZEH)が話題となっています。また、2020年の省エネ基準適合住宅の義務化などもあり、ますます太陽光発電に注目が集まっています。ここでは、太陽光発電を設置できる屋根の種類やメ…
-
ライフスタイル
外装材選びのポイントは? 建物の屋根と外壁はあわせて外装と呼ばれます。屋根の葺き替えや外壁の張り替えなど、外装の大規模なリフォームが必要になったら、また家を建てることになったら、どのような外装材を選べばいいのでしょう? …
-
耐震
家の耐震性は外観デザインと関係する? 地震をはじめとする自然災害の多い国、日本での住まい作りでは、耐震性や耐久性がとても大切になります。とはいえ、住宅に求められるのは性能だけではありません。せっかくのマイホームですから、…